【コラム】Epic vs Appleは何が原因で、どういった経緯があるのか

ゲーム

最近鼻水が大人しくなってきました。イネ科の花粉は10月頃まで飛散するようですが、ピークが7月前後ということで少しずつ収まってきているのだと思います。とは言え、やはり体調にも左右されますので酷いときはあいかわらず酷いです。

さて、基本ゲームに関する話題はレビューばかりでしたが、業界的にかなり大きな話題になっているこちらに関して纏めつつ私的な意見でも述べていきましょうか。

事の経緯

まず流れを把握していなければ話になりません。大雑把にまとめるならこんな感じでしょう(間違っていたらご指摘ください)。

  1. Epicがゲーム内課金に関するAppleのマージンを嫌がって別のルートでの販売を行い、ユーザーをそちらへ誘導する
  2. 規約違反なのでAppleはフォートナイトをstoreから削除する
  3. Epicが「そもそも30%の手数料は横暴で公平性に欠ける」と訴えを起こし、PVを公開
  4. Appleはフォートナイトのみならず、このままだとEpicの開発者アカウントを全部削除するよ?と警告
  5. 世界にはUnreal Engine利用者も多く、それは独占禁止法違反だと反論、取り下げを求める

知っておくべき重要なこと

  • Appleは黎明期から手数料を変えていない(プラットフォームが大きくなったからと言って釣り上げていない)
  • 少なくとも配信していたということは、当初からEpicは規約に同意していたということになる
  • 不服があれば正規にそれを申し立てる窓口がAppleにはある(ただ、過去にFaceBookがその手段をとった時にAppleは無視した経緯がある)
  • Epicの訴え自体はフォートナイトの削除に対するものではなく、あくまでAppleのマージンが不当に高い、というもの、加えて自由競争を求めている
  • 30%という数字は殆どのプラットフォームで採用されていて、Appleが特別暴利なわけではない(Epicは自プラットフォームの手数料を12%とし、独占契約すれば7%まで下げている)
  • EpicはGoogleにも同じ訴えを起こしている

独占禁止法に触れるのかどうか

私は法律の専門家ではないのであくまで素人目線にはなりますが、「事実上市場を独占状態にしており、それを利用して契約相手に不利を強いている」というのがその境目にあると思っています。それを前提とするのであれば、iOS市場で商売できないとお話にならない、というぐらいまでAppleの市場規模が大きくなければなりません。ちなみにより法寄りの観点で見ると「市場競争が働いているかどうか」というのが争点になるようですね。

で、プラットフォーム別のデータを探してきました。フォートナイトはゲームですから、今世界ではどのような手段でゲームを遊ばれているかというのを見てみましょう。

モバイル端末だけで50%近い数字を持っており、PCとコンシューマはそれぞれ二分する形となっています。

次にスマホ市場自体のiOSシェアを見てみます。

出回っている端末の絶対数や価格の影響もあるとは思いますが、iOSは全体の25%程です。

あとはフォートナイトが遊ばれているプラットフォームの割合を出したかったのですが、探してもデータが出てきませんでした。

とりあえずゲームのプラットフォームの世界でモバイル(タブレット含む)シェアが約50%、更にその中でiOSのシェアは約25%ですから、iOSで商売ができなくなるとしても失う市場は割合的にはかなり少なく見えますね。

ちなみにGoogleまで含めたらモバイル市場の9割をAppleとGoogleで締めてしまうわけですが、GoogleのAndroidは自己責任でapkの配布とインストールを認めているため、ストアから追い出されても別の手段が取れる以上勝ち取るのは難しいでしょうね。

野良アプリを制限する理由が(表向き)正当である

「胴元が圧倒的に有利な条件でしか商売をさせない」というのも独占禁止法に触れるような気がしますので、iOSのアプリの仕様についても触れましょう。iOSが野良アプリを制限し、一律でapp storeからのインストールしか認めない、というのは確かに自由度が低いわけですが、Apple的にはこれは「ユーザーを守り、アプリの質を一定に保つため」という大義名分があります。実際にiOS端末はセキュリティ的には強固ですし、審査を通ったアプリしか使えなくすることで怪しいアプリやウイルスの侵入を防ぐ役割は果たしているのでしょう、多分そのデータを出せと言われたらAppleは出せるでしょうから。

まぁ実際は囲い込んでウマウマしたい、というのもあるとは思いますけどね。

プラットフォームを抱えるリスクの高さ

前述したとおり、おおよそ殆どのプラットフォーム(Play stationやSwitch等)も30%取っていて、特別Appleが暴利なわけではありません。またコンシューマ機の場合は親元のストアを追い出されたら実質エンドユーザーに売る手段が無くなるため、そういった意味ではiOSと同じでしょう。

プラットフォーマーになる、というのは非常に大変なことです。Appleはそれこそipodの時代から自社ルートでの販路を構築し、そこに莫大な投資をしてきました。成功し巨大なマーケットを作り上げた今でも、審査にかかる費用やサーバーと回線の維持費等を考えれば相応のお金がかかるのは当然でしょう。 世の中は資本主義ですから、大きなリスクを負った上で勝負し、勝ち取った市場でお金を取って何が悪いのか、ということにもなります。

ただ、利用者が増えれば一契約あたりの上がりが少なくても利益を得ることもできるため、黎明期から一律で変えてきていない、というのは逆に悪い印象にもなり得ます。

また、マーケットが巨大ということはそこに自分たちのモノを置いてもらうということ自体に価値が見出だせるわけで、手数料が高くてもそこにメリットを見出すこともできます。反面、自分たちの名前だけで売れるぐらいユーザーを獲得しているならマーケットの価値は相対的に落ちてきます。逃げられる可能性も考えると、プラットフォーマーは常に安泰なわけではありません。

傍から見ればEpicがヤクザ

まず、不服があるなら正当な手段を取って申し立てをすれば良かったわけですね。そうすればフォートナイトが削除されることなんてありませんでした。PVが即公開されたという流れから見ても、規約違反していることと、それによって削除されることは織り込み済みだったように思えます。そもそも、これだけ影響の大きなゲームですから、警告もなしにいきなり削除するなんてことはまず無いでしょう。裏ではAppleからEpicへの注意はあったでしょうし、仮にそこで不服を申し立て協議の机に座れば削除はとりあえず保留となるでしょうから、無視し続けた、という結果だと思います。

また、そのPVが露骨にAppleを悪とする内容であることから、フォートナイトを利用している消費者を兵隊とし、世論を誘導したいという意図が透けて見えます。ただ、冷静に考えればフォートナイトが遊べなくなった理由はEpicが正当な戦い方をせず馬鹿げた行動を起こしたからであって、消費者こそAppleではなくEpicを非難すべきでしょう。

また、SpotifyやNetflix、AmazonのKindleの例で見てもわかるように抜け道が全く無いわけではありません。これらはアプリ内課金で手数料を取られないための販路を構築していて、それはAppleの規約には触れないため配信を止められたりもしていませんからね(ゲームという媒体でその手法が実現できるかはわかりませんが)。違反しない抜け道がある中で敢えて規約に触れる手法をとったあたりも、最初から訴えを起こす気満々だったのでは?と。協議の結果、折り合いがつかず自分から降りてしまったらAppleを悪者にできません、不当な理由で削除されたように見せ「君たちが今まで通りゲームを遊ぶにはAppleを倒さなければいけない!」と陽動するための筋書きだったのでしょうね。

Epicが勝ったほうが市場は変革しそうだけど…

マージンがどこも一律30%っていうのがなんかカルテル染みていませんか?日本で言えば携帯の3大キャリアみたいですよね。実際維持費にどれだけかかっているのかはわかりませんが、決算での利益等を見ればプラットフォーム商売がどれだけ利益を得ているかなんとなく想像はつくでしょう。30%は確かに今の時代多いのかもしれません。言い分「だけ」は理解できます。

ただ、今回のEpicの戦い方はあまりにも雑な上悪質であり、IBMの「1984」事件とは全然違うのにそれを例えとして出して、あろうことか自社のユーザーを煽動して兵隊に仕立てようとしている、というのは褒められたものではありません。

ぶっちゃけ米中代理戦争

アメリカがトランプ政権になった辺りから米国の中国脱却傾向が強くなっています、少し前はTiktokにも警告を出していますし、ファーウェイの締め出しもその一環です(ちなみにファーウェイは独自OSで展開を試みている模様)。正確には米国協議会の動きであって、トランプ自身はビジネスマンなのでそこまで強行派では無いのですけどね。

Epic株の40%を中国テンセントが所持しており、実質その支配下にあります、つまりは中国企業状態です。そして周知の事実ではありますがAppleとGoogleはアメリカ企業。色々な分野で米中対立が激化している状況ですし、アメリカはテンセントに対しても排除姿勢ではあったので、それに対してEpicを使って攻撃してきた、とは誰しもが邪推するでしょうね。

余談:Unreal EngineがiOSから排除された場合の影響は?

現在ゲーム業界では汎用エンジンはUnreal Engine(UE)とUnityで2極化しています。前者は割と大規模な開発に使われ、後者はその特性上インディーズや中小規模に採用されることが多いです。和ゲーでも自社エンジンではなくUEを採用しているタイトルは多いので見過ごせないわけですが、現状だとあくまで「iOS」から排除される可能性があるというだけなので、PCやコンシューマでの影響は小さく思えます。

ただ、開発費の高騰から基本的に大型タイトルはマルチプラットフォームが前提になることが多い現状、1つのプラットフォームで展開することができない(可能性がある)エンジンを今後開発サイドが使い続けるのか、使いたがるのか、というのが気になる点になってきますよね。ましてや今後は間違いなくモバイル市場が成長してきますから、その中にあるiOSでの展開が見込めない、となると二の足を踏む場合も出てくるでしょう。

また、今回Epicは30%というマージンに不服を抱いているわけで、他コンシューマ界隈のプラットフォームも基本30%です。要はAppleやGoogleだけに留まらず他にも噛み付いてくる可能性があるわけで、そんな会社のエンジンを契約して使うのはリスクがあるのではないか?と、私が開発者だったら考えてしまいます。

一応Epicは現時点ではコンシューマの30%には納得の姿勢を示しているようで、理由は専用ハードウェアへの投資や、販売元と協力したマーケティング等があるためとしているようです。あくまでオープンプラットフォームにおける30%が不当、ということだとか。…あれ?GoogleはともかくAppleの市場ってオープンプラットフォームだっけ?そもそもAppleはハードウェアからして自社開発だし、ストアで特集を組んだりとマーケティングも行っているような?

裁判は非常に時間がかかるのでいつ結果が出るのかはわかりませんが、私感ではEpicが勝つ世界線はあまり良い方に転ぶとは思えないですね…やり方も言い分も筋が通っていないので、自分たちが力を付けたらそれはそれで、当初と違うことを言い出しそうな予感。ただこれは「悪と正義の戦い」というものではありません。ぶっちゃけ両方「阿漕」なことしていますしから。

AppleはEpicが送ってきたメールを公開したが…

※8月25日追記

Apple「Epicが送ってきたメールには『自分たちを特別扱いしろ』て書いてあったぞ」

という内容を公開し、おそらく世論から「デベロッパー皆のこと考えているなんて綺麗事で、結局自分たちが得したいだけじゃないか」という方に持っていきたい感はあったのですが、Epicが出したメールの末尾には「そして全てのデベロッパーに平等に提供してくれることを願います」とちゃんと書いてあり、それを意図的に削除していたのですね。

すっげぇ馬鹿ですねApple、メールを裁判で使う場合は、当たり前ですが正確な情報と内容が不可欠なのでこんなことをしても墓穴を掘るだけです。

MicrosoftはUEに関してのみ言及

※8月25日追記

Microsoftも声明を発表しましたが、内容としては「UEまで手を出されるとうちは勿論、UEを使った開発者や会社の負担が大きくなりゲーム業界全体に影響が出るからやめてくれ」という感じのものです。メディア的には「MSがEpicの味方になったぞ!」という論調ですが、手数料やフォートナイト削除に関してはスルーしています。

UEを人質に取っているのはEpic、Microsoftどちらなのでしょうか?これに関してはどの目線で見るかによって変わってきます。ストレートに情報だけ追えばAppleが脅しているようには見えますけどね。EpicにはUE自体は今回の件から退避させる手段は他にあるわけで、こっちもこっちでUEを利用して味方を増やしたい、という思惑はあるように見えます。仮にアカウント凍結→エンジンのアップデートが不可→トラブル発生、となった場合、利用者から訴えられるのはAppleではなくEpicになります、人質でもあり爆弾でもある、といったところでしょうか。

あとはまぁ…MSには独禁法絡みでボコボコにされた過去がありますから、そういった面でも流れに乗りたいという側面はある気がします。